冴えた色合いと香りで、心までまろやかに。山口園の「さえみどり」で至福の一杯を。

冴えた色合いと香りで、心までまろやかに。山口園の「さえみどり」で至福の一杯を。

お茶の生産量が全国2位と言われる鹿児島。以前取材に訪れた「釜茶房まえづる」を始め、おいしいお茶を育てる農家さんがたくさんいらっしゃいます。今回は、鹿児島県さつま町で茶業を営む「山口園」のもとを訪れました。

ここは、ALL GREENよりお届けしている「さえみどり」を育てている茶農家さん。2代目である山口さんと、その息子である正和さんの親子二人三脚でお茶づくりを営んでいます。

我が子を育てるように、赤ん坊のように。
丁寧に、丹念に茶の木を育てる山口さん親子。

「“さえみどり”はとてもおいしいお茶でしょう。私が初めて飲んだのは、今から30年近く前でしょうか。当時、鹿児島で“さえみどり”を育てている茶農家さんはまだ少なかったんですが、私は縁があってたまたま飲ませてもらう機会があったんですよ。そのときに“ああ、これはとてもおいしいな”と。それで、私の茶畑でも育て始めたんです」

あらゆる品種のお茶を飲んでいるであろう山口さんが、改めておいしいと感じた「さえみどり」。一体、どんな魅力を感じたのでしょうか。

「そうですね……色合いもいいし、香りもとても爽やか。それでいて、旨みもしっかりとある。いいところばかりですよね。私が植え始めた当時はまだこの地域で育てている茶農家さんは少なかったんですが、今では多くの方が育てています。それだけ、このお茶をおいしいと評価している人が多いということ。認知度が高まるにつれて、“自分の感覚は間違っていなかったんだな”と、嬉しくなります」

一般的な煎茶よりも少し濃い色合いで、ひとくち飲むと濃厚な旨みを感じられる。穀物のようなまろやかな香りが特徴の「さえみどり」。しかし、同じ茶葉を育てていても、その色合いや風味は茶農家さんの栽培方法によっても違うもの。山口園では、どんな風に茶の木を育てているのでしょうか。

「“とにかく健康で、素晴らしく大きくなってほしい”の想いを込めて育てています。人間の赤ちゃんと同じですね。ただ、その想いを叶えるのがなかなか大変で。雑草が邪魔をしたり、天候に左右されたりと、困難は山ほど出てきます。どんなときも気は抜けないですね。こだわりと言えるかはわかりませんが、私たちは茶の木を植える際、天地返しという土をひっくり返す作業を行います。さらに、茶の木を土に植えるときは平らな状態にするのが一般的ですが、うちでは一つひとつ土を盛り上げ、彼らが育ちやすいよう環境を整えてあげるんです。他にも、雑草を抑えるためにカヤを切って敷いてあげたり、藁を足してあげたり……自然な方法でできる限りのことをしています。生産者ごとに味が違うというのは、当然でしょうね。違いが明確に出るからこそ、私たちも意欲を持ってお茶づくりに向きあうことができているんです。育てながら、飲みながら、ああでもない、こうでもないと毎年言い合っていますよ」

まるで、我が子を育てるように語る山口さん。茶の木の苗を「赤ちゃん」と表現したり、成熟した茶の木を「彼ら」と呼んでいたりと、一本、一本、大切に想っていることがとてもよく伝わってきます。

息子の正和さんは、肥料の配合などを主に考えているのだそう。

「植物生理学を踏まえて、ミネラルのバランスなどをしっかりと考えながら肥料を配合しています。その結果を最初に示してくれるのが、一番茶。毎年、一番茶を摘み取る瞬間はとてもドキドキしますよ。うまく育ってくれたときは、本当に嬉しいですね」

また、山口園のロゴデザインやサイトの運営など、広報やPRに関する面も、正和さんが主軸となって考えているそうです。

「山口園のロゴは、山と茶葉をイメージしたもの。さつま町の山の中で、一枚一枚、大切に育てていますという意味を込めてつくっています」

親子二代、それぞれの世代の得意分野を活かして茶業を営んでいる様子が伝わってきました。

水、風、土、太陽、気温……
産地に注目することで再認識できる、お茶の価値。

山口園を訪れたのは、2023年の秋。例年よりも気温が高いと言われていましたが、夜間や早朝は上着がないと肌寒いほど。本州に比べて、昼夜の寒暖差が目立ちました。この気候こそが、茶葉が栄養を蓄えるのに非常に適しているのだとか。

「さつま町は非常に寒暖差の激しい地域です。昼夜もそうですが、夏は35度、冬は-10度まで気温が上下するほど。でも、この気温差のおかげで茶の木がしっかりと冬眠に入り、たっぷりと栄養を蓄えてくれるんです。春になるとその栄養を茶葉に届けてくれるから、一番茶はとてもおいしいんですよ。こういった気候の特徴も、お茶の発信力につなげられないかと考えています。ほら、ワインの世界では、味の決め手としてテロワールがすごく大切にされているでしょう。テロワールは風土や土地の個性など表す言葉ですが、私はお茶の世界も同じだと思っていて。生産者の想いや工夫はもちろんですが、そのお茶が育った気候や土の種類なんかも、お茶の味わいにつながってくるんですよ。うちなら、寒暖差に加えて特徴的なのが赤土。ミネラルが豊富な土で育ったお茶になります。そういった方面からも、お茶をアピールできないかと思っているんです」と、正和さん。

確かに、同じ九州地方で育ったお茶でも、標高や土地の特徴が違うだけで味や色合いはまったく変わってきます。さつま町は鉄分が多いとされる赤土の土壌が多く、粘り気のある土はさつま芋などの農作物もおいしく育ててくれるそうです。

自宅で飲むお茶や誰かに贈るお茶を買うとき、品種について調べる人はきっと多いはず。ここからさらに「どこで育ったのか」という気候や風土にも目を向けてみると、今までと違った価値観でお茶を選ぶことができるかもしれません。

至福の時間に、ゆったりと味わう「さえみどり」。
手塩にかけた愛情を、飲み干すように。

お茶づくりのこだわりなどを聞いた後は、「さえみどり」の楽しみ方についても聞いてみました。実際に育てている茶農家さんは、どんな飲み方をすすめてくれるのでしょうか。

「さえみどりは、至福の時間にゆっくりと飲んでいただきたい品種。茶菓子や料理に合わせて飲むよりも、お茶単品でその深い味わいを楽しんでもらいたいですね。一人でほっこりとしたいときや、お客さまをお茶でおもてなしするときなどに向いているんじゃないでしょうか」

さらに、「お茶」以外に茶葉を楽しむ方法がないかと聞いてみると、こんな答えも返ってきました。

「僕は、茶葉をそのままポテトサラダとかに加えてもおいしいんじゃないかなと思いますね。ポテトサラダにきゅうりを入れたりする感覚で茶葉を添えてみると、味が引き締まっていいんじゃないでしょうか」

「お茶漬けもいいですが、鹿児島の郷土料理である“茶節(ちゃぶし)”。あれもぜひ試してもらいたいですね。削ったカツオ節と味噌を茶碗に入れ、そこにお茶を注いで飲むのが一般的ですが、私たちは茶葉をそのまま茶碗に入れ、そこにお湯を注いで飲んでいます。茶葉はお茶として煎れた後は捨てることがほとんどですが、私たちからすればそれは非常にもったいない。栄養がたっぷり入っている茶葉を入れて、より濃厚な茶節を楽しんでいただきたいですね。キャンプなどで食べる料理としても最適だと思います。疲れたときや、二日酔いのときなどに飲む人が多いですよ」

茶農家ならではな目線で、お茶の新しい楽しみ方を教えてくれる山口さん親子。茶葉をまるごと飲み干せる「ALL GREEN」なら、ポテトサラダに和えるのも、茶節にするのも、どちらのメニューも手軽にできそうです。

飲む人との出会いを通じてお茶の魅力を伝えたい。
「会いに行ける茶園」を目指して。

最後に、改めて山口さんに「お茶を飲む人々に伝えたい茶農家としての想い」や「茶農家として感じるお茶の魅力」について聞いてみました。

「いちばんはやっぱり“飲む人に健康になってほしい”なんですよね」

「日本にお茶が伝わって1000年以上が経ちます。一度も歴史が絶えることなく続いているのは、やはりそれだけの価値があるということ。お茶を飲めばそれだけで健康になる……と、断言はできませんが、その一躍を担うことはできると私たちは信じています。だからこそ、飲む人が少しでも“お茶を飲むと調子がいいな”、“これからもお茶を飲み続けたいな”と感じるようなお茶を届けたいと思うんです」と、山口さん。

まるで我が子を想うように、大切に、大切に茶の木を育てる理由はすべて、そのお茶を飲む人たちのことを想うからこそ。そんな山口さんの今の願いは、「飲む人が茶農園を訪れる機会を生み出すこと」だそう。

「さつま町は、みなさんが“行ってみたい”と思えるような観光資源は少ないかもしれません。でも本音を言えば、ぜひ現地までお茶を飲みにきていただきないなと思いますね。実際に生産されている場所を見ていただきながらお茶を飲むというのは、きっといつもと違った楽しさを感じられるのではないかなと。そして、うちのお茶をもっと好きになっていただければ、これ以上に嬉しいことはないですね」

“観光資源は少ない”という言葉が信じられないほど、実際に連れて行ってもらった茶畑はとても雄大で、のどかな風景は眺めているだけで心がスッキリと洗われるほど。都心部では決して味わえない自然の魅力が、ゆったりと広がっています。

近くには温泉宿もあり、滝や川遊びといったレジャーも人気。たけのこ、薩摩西郷梅、芋焼酎、あおし柿、そして薩摩茶。数え切れないほどの魅力が、この町にはあります。観光でお立ち寄りの際、「茶農家さんのもとを訪ねる」そんな時間をつくってみるのもいいかもしれません。