静岡県藤枝市の茶業を支える、杉村製茶の「ふじえだかおり」。

静岡県藤枝市の茶業を支える、杉村製茶の「ふじえだかおり」。

静岡と言えば誰もが知るお茶の名産地ですが、茶農家さんによって育てているお茶の品種や育て方のこだわりはさまざまです。

私たちが今回訪れたのは、静岡県藤枝市で茶業を営む杉村製茶さん。静岡県藤枝市から生まれたお茶「ふじえだかおり」の製茶を担っています

しかし、「ふじえだかおり」を栽培している茶農家さんは市内でも稀少なのだとか。貴重なお茶が一体どんな場所でつくられているのか、この目で確かめに行ってきました。

残暑の空気を感じながら、静岡県藤枝市の茶農家を訪ねて。

東京から東海道新幹線に乗って約1時間。静岡駅で降りて車で北西方面へ。山間部へと入ったすぐ先に、杉村製茶の工場があります。

杉村製茶のある藤枝市は、昔から香り高い銘茶の産地として知られる地域。瀬戸川や朝比奈などの清流にも恵まれ、自然豊かな風景が広がります。私たちが訪れたのは、そろそろ茶葉の最後の収穫が始まるかという8月下旬。立秋を過ぎたとは言え、まだまだ汗ばむ気温です。

「はいはい!こんにちは!」元気な声で迎えてくれたのが、杉村製茶の杉村さん。ALL GREENのラインナップである「ふじえだかおり」の製茶を手がけられています。

3代目である杉村さんが営む製茶工場は、平成初期に建設されたのだとか。「まるきん」の字は杉村さんのおじいさまにあたる初代の名前が「金太郎」だったことに由来しているそうです。

日本で最もポピュラーな「やぶきた」の親しみやすさと、
インド発のオリジナルな香りが調和した「ふじえだかおり」。

「ふじえだかおり」は、日本茶として最もポピュラーな「やぶきた」に、インドの香り高いお茶「印雑131(いんざつ)」を交配して生まれた藤枝市発祥の品種。昭和後半頃から「ふじえだかおり」の前身となる茶葉の交配が始まり、平成中期に本格的な流通がスタートしました。

紅茶生産国であるインドの品種を交配してできたためか、ジャスミンのようなオリエンタルな香りが印象的。色味は透明感のある黄金色で、飲むとまろやかな旨みが感じられます。

緑茶をよく飲む方はもちろん、ハーブティーを飲む方にも好まれそうな「ふじえだかおり」ですが、杉村さんによると、この品種を育てている茶農家は市内ではわずか数軒なのだとか。

「僕が知る限り、“ふじえだかおり”を育てている茶農家さんはもうあと2、3軒。昔はもっといたんだけど、この辺りは茶農家さん自体が年々減ってきているんですよ。私は68歳だけれど、それでも地域では若い世代と言われているぐらい。後継者問題については、全国的にどこの茶農家さんでも悩まされていますね。僕は子どもの頃からこの仕事をすると決めていましたし、幸い跡継ぎもいますが、お茶業界がもっと盛り上がってくれたらいいなというのはやっぱりいつも思いますよ」

毎年、限られた量しか収穫されないとなれば、流通も限られているはず。私たちが手に入れた「ふじえだかおり」の一番茶が、非常に貴重なものであることが伝わってきます。

他にも、近隣の茶農家のみなさまことや育てている茶葉の品種について、工場にある機器の扱い方、製茶のこだわりなど、いろいろなお話を聞かせてくれる杉村さん。実はこちらの工場は、杉村さんご自身が育てた茶葉に加え、地域の茶農家が収穫した茶葉の製茶も任されているそう。私たちが今まで訪れた工場よりも規模が大きく感じるのは、そのためだったのですね。

さらには、近隣の茶畑で使用する有機肥料も、杉村さんがすべて設計しているのだとか。肥料の調合や蒔く時期など、近隣の茶畑の状況に最も適した状態になるよう考えているのだと教えてくれました。

後継者がいないことや生産者の高齢化などは、茶業に限らずさまざまな業界で問題とされていることですが、杉村さんのお話を聞いていると、そうした問題に負けず、地域で連携し、力を合わせてお茶づくりを行っている様子がしっかりと伝わってきます。

「お茶の歴史を知りたい」
その探究心が、杉村さんの原動力に。

お茶に関するさまざまなお話を聞かせてくれる杉村さん。そのあまりの詳しさに、お茶に対する深い愛情が感じられます。

「お茶づくりに詳しい茶農家さんはいっぱいいるけれど、お茶の歴史に詳しい人ってあんまりいないというのが僕の印象で。それで、自分の足で原産地に行ってお茶を学んでみたくなったんだよね。もともと旅行が好きで、海外にもこれまで20回以上行きました。観光のつもりで行くんだけど、やっぱりその国のお茶事情が気になっちゃって。今までにいろんな国のお茶を飲ませてもらってきましたよ」

そう言って、話題は世界のお茶事情へ。中国、インド、タイ、マレーシア、ラオス……と、これまで訪れた国々での体験談を話してくれます。

「茶箱道(ちゃばこどう)って知ってる?唐宋時代から中国西南部にある交易路で、当時はね、中国の雲南省で取れたお茶を四角い箱に入れて馬にくくりつけて、チベットまで運んでいたんですよ。もうひとつ、万里茶道(ばんりちゃどう)っていう交易路もあって。これは中国からロシアの方へお茶を運んでいたもの。あとはアヘン戦争。あれもね、実は“お茶の戦争”と言われているんだ。お茶に関する歴史的事件と言えば、ボストン茶会事件というのもあるね。それぐらい、お茶というものは歴史が古く、尚かつ世界中で親しまれてきたものなんですよ」

史実をただ机上で学ぶだけでなく、実際に自分の足でその地に降り立ち、現地の人から話を聞きながら知見を広げていったと話す杉村さん。その姿を想像すると、まるで冒険家のよう。さまざまな国で購入してきた珍しいお茶のコレクションなども見せてくれます。

どんな旅行ガイドやお茶ガイドにも載っていないであろう、奥深いお茶のお話をたくさん聞くことができました。

肉厚な葉に、たっぷりと旨みと栄養を含んで。
「ふじえだかおり」の味わいを、優雅に楽しんで。

お茶の話で盛り上がった後は、実際に「ふじえだかおり」が栽培されている茶畑にも連れて行っていただきました。

「ここは坂の勾配がキツイから気をつけて!しっかりシートベルト締めててね!」

その言葉の通り、藤枝市の茶畑は急傾斜地にあることが多いそう。グングンと山道を登った先には、立派な茶畑が広がっていました。

「ふじえだかおりは、非常に葉肉の厚い茶葉ですね。茎も太くて立派。インドの品種が交配されているから少し寒さに弱いという特徴がありますが、その分、夏の高温には強いんじゃないかな」

夏の暑さに負けない強さを持つふじえだかおり。その逞しさは、一番茶、二番茶を摘み取った後からでも、しっかりと伝わってきました。

肉厚だという茶葉をまるごと粉砕してつくるALL GREENなら、その旨みを余すことなく楽しむことができます。ほのかに香るオリエンタルな味わいが、いつものティータイムをより優雅なものにしてくれるはず。ぜひ、ゆっくりとお茶の時間をお楽しみください。