クチナシのように優雅に香る、井村園「さやまかおり」の香り緑茶。

クチナシのように優雅に香る、井村園「さやまかおり」の香り緑茶。

静岡県島田市内から旧東海道を西へ歩くと、当時の石畳が未だのこる「旧東海道菊川坂石畳」にたどり着きます。旧東海道と言えば、江戸から京都までを結んでいた長い道のり。歌川廣重の浮世絵「東海道五十三次」などで、その歴史を知っている人も多いことでしょう。 

創業から150年以上の歴史を持つ井村園があるのは、旧東海道菊川坂石畳からさらに先へ進んだところ。菊川を渡ると、築100年以上が経過しているという立派な日本家屋が見えてきます。季節は二番茶の茶摘みがすっかり落ち着いた8月。この日は、8代目の井村さんとその先代であるお父さまがおふたりで出迎えてくれました。

「香り」を誇るお茶が多種多様に栽培されている井村園。今回、ALL GREENのラインナップである「さやまかおり」の香り緑茶をはじめ、さまざまなお茶の特徴やお茶づくりのこだわりについて、お話を聞いていきます。

お茶づくりにおいて、100年以上の歴史を持つ井村園へ。

「どうぞ、暑かったでしょう」と、キンと冷えたお茶を出してくれた井村さまとお父さま。真夏の昼下がりに訪れた私たちを、やさしく迎えてくれます。

「今日はどっちの道から来ましたか?旧東海道の方?あそこはね、当時はよく大名行列が通っていたそうで。詳しい史実がのこっているわけではないですが、この辺りに住む人たちはみんなね、大名行列が通る度に仕事の手を止めてお迎えしなければいけなかったそうですよ」と、地域独自の歴史について教えてくれるお父さま。

「静岡県は明治初期の頃に牧ノ原台地の開拓が行われ、その頃からこの辺りでは茶業が盛んになっていったんです。うちは私で8代目ですが、茶業を始めたのはちょうどその時期の3代目からだと聞いています」と、井村さんも続きます。

牧ノ原と言えば、日本トップクラスの日照時間を誇る地域。太陽の光はもちろん、清流にも恵まれ、茶葉をはじめさまざまな農作物を栽培するのに適した条件が揃っています。静岡県内でお茶づくりが盛んなのは、そうした気候条件も関係しているのだと、改めて気づかされます。

深蒸し茶を専門にしながら、
代を重ねるごとに「新しさ」にも挑戦して。

「井村園の特徴をあえて言うなら……何でしょうね。うちでは昭和40年代頃から深蒸し茶を始めて、そこからずっと深蒸し茶を中心につくってきました。深蒸し茶のルーツにはいろいろないわれがありますね。葉肉の厚い茶葉は、他の茶葉と同じように蒸すとどうしても渋みが出てしまうのですが、何とか甘く、旨みのあるお茶にできないかと茶農家が試行錯誤する中で、深蒸しの文化が生まれたと言われたりしています。静岡でつくられているお茶は、ほとんど深蒸し茶なんですよ」

何でも、茶葉は加熱するほど葉肉に含まれるペクチンという甘味成分が出てきて、味わいがまろやかになるそう。渋みの強い茶葉であっても、蒸す時間を長くすることでよりおいしいお茶にできるなんて、驚きです。 

しかし、井村園では蒸す時間をただ長くするだけでなく、さらに一工夫加えているのだとか。実際に工場にも連れて行ってもらい、機械の説明などもしてもらいました。

「うちでは、蒸す際に茶葉にかける加重をかなり優しくしています。通常、蒸し時間が長くなると茶葉は粉々に崩れてしまいますが、加重を優しくするとある程度茶葉のかたちがのこるんですよ。そうすると、甘くまろやかになりながらも、茶葉本来の香りが割とのこるんです」

そう言って、機械の前で実際の工程の様子について説明してくれる井村さん。本来なら機械の手順通りに作業した方が効率もいいはずですが、井村園ではこだわりの加重を実現するため、毎回、自分たちの手で機械の加重加減を微調整しているそうです。

すべての工程を機械任せにせず、こだわりたい部分はしっかりと自分たちの手と目で確かめながら。その姿勢から、お茶づくりに対する真摯な想いが伝わってきました。

萎凋によって独特な香りを生み出す「さやまかおり」は、
「幸せを運んでくれるお茶」かもしれない。 

お茶の世界では、茶葉を低温でわざとしおれさせる萎凋(いちょう)工程を踏んだお茶を「萎凋緑茶」や「萎凋煎茶」と呼んでいますが、静岡県の茶業研究センターが親しみを込めて「香り緑茶」と呼びだしたことにあやかり、井村園でも萎凋茶を「香り緑茶」として呼んでいます。ですが、実は、香り緑茶をつくるのは一筋縄ではいかないそうです。

「萎凋した茶葉は、深蒸しにすると香りがなくなり、かと言って蒸しを浅くすると茶葉の酸化酵素の働きを止める殺青(さっせい)がうまくできなくなってしまいます。蒸しのバランスを見極めるのがとても難しいんですね。萎凋にはそれなりの知識や経験が必要ですし、殺青不良が起きた際もある程度ノウハウがないと対応できない。恐らく、ずっと緑茶だけをつくり続けてきた人がいきなり香り緑茶を始めようとすると、なかなかハードルが高いと思います。うちはたまたま僕の代から紅茶をつくりはじめていたこともあって、“香り緑茶”に参入しやすかったんですよ。紅茶のノウハウがあったからこそ、深蒸し緑茶、香り緑茶、釜炒り茶……と、いろんなお茶をつくることができています」

萎凋は、主に紅茶や烏龍茶などのお茶づくりに使われてきた技法。ALL GREENではこれまでにもいくつかの萎凋茶をご紹介してきましたが、その深い香りは農家の方の熟練の腕によって生み出されたものだったのです。

「“さやまかおり”は甘味が少なく、渋みが強いという特徴があります。これだけ聞くと個性を強く感じるかもしれません。でも、一般的に流通している他の茶葉に比べると青々とした色合いが美しく、香りも他とは違う魅力もあります。その良さをもっと活かせないかと香り緑茶にしてみたところ、香りが引き立ち、魅力が一層増したんです」 

「“さやまかおり”の香り緑茶は、6月頃に咲くクチナシという花に似た香りがしますね。少し甘酸っぱいような、まったりしたような。あと、お祝い事によく贈られる胡蝶蘭とも割と似ているかもしれないですね。萎凋した分、香りがやさしくなるので、茶菓子と合わせて食べるのもいいですが、お茶そのものの味わいを感じてもらうとその魅力もよくわかると思います」

「喜びを運ぶ」などの花言葉を持つクチナシや、「幸福が飛んでくる」といった花言葉を持つ胡蝶蘭。その花に例えられる“さやまかおり”の香り緑茶。ひとくち飲めば、きっと、幸せな気持ちを感じられるのでしょう。 

ときには、茶器にもこだわって。
ティータイムをもっと優雅に、1日をもっと豊かに。

私たちが井村さんからお話を聞いているこの場所は、井村園の審査室。呈茶もできるような設計になっています。後ろにはさまざまな茶器が並びますが、茶器によってもお茶の味わいや香りは変わってくるものなのでしょうか。 

「基本的に、深蒸し茶はみなさんがよく見かけるような丸い急須で煎れるのがオススメです。お湯の熱を保つには、深く、丸いかたちの方がいいので。この白い蓋付きの茶碗は中国の茶器で、鑑定杯(テイスティングカップ)と言います。香り緑茶を煎れるときにいいですよ」

慣れた手つきでお茶を煎れてくれる井村さん。ALL GREENは茶葉をまるごと粉砕しているので「いつでも気軽に飲めること」が良さのひとつではあります。しかし、ときにはこんな風に食器にこだわって、見た目も味も、どちらも楽しむティータイムを過ごしてみると、その日1日がより豊かになるのかもしれません。 

「さやまかおり」をはじめ、たくさんの茶葉を栽培されている井村園。同じ茶葉でも、香り緑茶、釜炒り茶、紅茶と、製法による違いを楽しむこともできます。ALL GREENの「香り緑茶のさやまかおり」はもちろん、興味のある方はぜひ、他の茶葉も試していただきたいものです。