萎凋によって引き立つ、奥富園「ふくみどり」の隠れた芳香。

萎凋によって引き立つ、奥富園「ふくみどり」の隠れた芳香。

「ALL GREEN」のラインナップである「ふくみどり」。その香りは、まるで花のようだと比喩されるほど。高貴な香りは、ティータイムのお供にも最適です。

香りだけで気分を高揚させてくれる「ふくみどり」の味わいは、どのようにして生み出されているのか。そのストーリーを知るために、私たちはつくり手である埼玉県の「奥富園」へ向かいました。

狭山茶の伝統を、江戸時代から守り続ける奥富園。

ときに「幻のお茶」とも呼ばれる狭山茶。埼玉県の狭山市をはじめ、入閒市や所沢市などのエリアで生産されているお茶の総称です。一説によれば、鎌倉時代には既に始まっていたという狭山のお茶づくり。栽培から販売までをすべて一貫して行う茶農園が多く、スーパーや専門店にはなかなか流通しないことが、「幻」の異名を持つ由縁かもしれません。

そんな狭山茶づくりを、300年以上も継承し続けているのが奥富園。池袋駅から電車に乗って約45分。新狭山駅で降り、閑静な住宅街を歩いた先にある茶農家さんです。

ALL GREENのラインナップのひとつである「ふくみどり」の茶葉は、この奥富園が育てたもの。茶葉の育て方のこだわりや農園についてお話を聞くため、取材へと伺いました。

この日は、茶摘みシーズンまっただなかの5月中旬。ご家族総出で、早朝から絶え間なく茶摘みを行い、茶葉の製造に取り組まれていました。

スズラン、バラ、モモ、マスカット……
独特の香りが引き立つ「萎凋茶」を、丁寧に、熱心に。

奥富園のお茶づくりで特に注目したいのが「萎凋茶(いちょうちゃ)づくり」を積極的に行っていること。ALL GREENの「ふくみどり」も、萎凋でつくられています。

萎凋とは、茶葉をあえて萎れ(しおれ)させてつくるお茶の製法。摘み取った茶葉をしばらく放置して水分を抜き、茶葉に含まれる酸化酵素を活性化させて独特な香りを引き出します。

紅茶や烏龍茶なども、実は萎凋をしたお茶の一種。台湾など一部の国ではポピュラーなお茶づくりの製法ですが、日本では知らない人の方が多いかもしれません。

「“落ち葉のイチョウですか?”と、しょっちゅう聞かれますよ。普通の人は聞き慣れない言葉ですよね」と、明るい笑顔で答えてくれたのは十五代目である奥富さん。萎凋茶について、さまざまなことを教えてくれました。

日光に当てる天日萎凋や、風通しのいい室内で自然に萎凋させる静置萎凋など、萎凋にはさまざまな種類があります。しかし、自然の力に頼りすぎると、その日の気温や湿度によって茶葉の香りが大きく異なってしまう難点も……あらゆる製法を試してきた奥富さんは、その経験をもとに、萎凋専用のビニールハウスを独自につくられたそう。

代々続く茶農家の当主が、それほどまでにこだわる萎凋茶の魅力とは何なのでしょうか。

「萎凋茶の魅力は、香りの豊かさ。萎凋によって茶葉の隠し持っていた香りが引き出されるんです。スズランのような花の香りを思わせるものがあれば、桃やマスカット、バナナといったフルーツのような香りがするものもあります。“ふくみどり”なら、萎凋によって花の華やかな香りが引き立つように感じますね」と、奥富さん。

品種によっては、バニラや柑橘のような香りがするものもあるのだとか。お話を聞いているだけで、いろんな種類の萎凋茶を飲んでみたくなります。

「萎凋茶は、水出しよりもお湯で淹れて飲むのがオススメですね。ゆっくりと冷めていく過程で茶葉の香りが徐々に立ってくるので。熱いうちに飲む香りと、冷めてから飲む香りもまた少し違っていて楽しいですよ」と、奥富さん。

さらに、萎凋茶は甘い食べものと相性が良く、例えば、いちごのコンフィチュールと一緒に味わうのもオススメなのだとか。奥富園の萎凋茶は東京 神楽坂にあるレストランのデザートコースにも使用されているそうで、ますます興味がわいてきます。

しかし、萎凋茶はもともと「業界的には低く評価されていた」と、奥富さんは言います。一体、どうしてなのでしょうか。

「埼玉では昔から“狭山茶は萎凋した方がおいしい”という声もありましたが、萎凋することは、煎茶の世界では欠点だと捉えられてきました。萎凋香が出たお茶は、“(生葉の)品質管理が甘い”だとか“茶葉が新鮮ではない証拠”だと評価されてきたんです。しかも、萎凋茶はつくるのにかなりの技術が求められるもの。萎凋が足りないと香りを引き出せないし、やり過ぎると茶葉に傷み臭が出てしまう……茶葉を摘み取るタイミングによっても香りが大きく変わってしまいます。商品として均一の香りを保つのが非常に難しい製法ですが、そういう逆境があればあるほど、僕はむしろ挑戦してみたくなるんですよね」

壁を乗り越えるために、あえてチャレンジする。その姿勢は、奥富さんの「若い人にもっとお茶を飲んでもらいたい」という想いがあるからだそうです。

新しい世代の日常に、もっと日本茶を。
身近に、気軽に感じられる工夫を凝らして。

「日本茶に対して、どこか堅苦しい印象を持つ人は少なくないと思います。日本を代表する伝統産業のひとつですし、“ちゃんとしなきゃいけない”と、敷居を高く感じてしまう人もいるはず。でも、そのイメージのままでは若い世代の人に受け入れてもらえないですよね。そうなれば、お茶の世界は衰退していく一方。だからうちでは、伝統を大事にしてくれているお客さまを大切に想いながらも、若い人にも親しみや興味を持ってもらえるようなお茶をつくりたいと、ずっと試行錯誤しています」と、奥富さん。

萎凋茶づくりは、そうした試行錯誤のひとつなのだとか。

奥富園では他にも、オリジナル茶の商品化やあんずやいちごの紅茶の販売……急須が描かれたオリジナルTシャツをつくったり、新茶の購入特典としてオリジナルエコバッグを配布したりと、若い人にも興味を持ってもらえるよう、さまざまな活動を行っています。店頭に並ぶ商品を拝見していると、「鬼の白骨」というとても独特な名前のお茶も並んでいました。

「“鬼の白骨”は、茶葉の茎部分だけを集め、白くふくらむまでじっくりと火入れしたものです。茶農家の間では、昔からお茶の茎を“骨”と呼んでいたのでそう名付けました。でも、お客さまに販売する茶葉の名前に“骨”を使うなんて、なかなかないですよね」

他にはないオリジナルな感性が、むしろ記憶にのこるインパクトに。昔ながらのお茶づくりの技術を磨くことに加え、若い世代の人たちに興味や関心を持ってもらうことも忘れない奥富さん。オンラインでの販売やInstagramなどのSNS活動にも積極的です。

そうした活動がたくさんの方の目に留まり、年々、地元のお客さまだけに留まらず、都内から電車を乗り継いで来てくれるお客さまも増えているのだとか。

「若い世代のお客さま、増えてきましたね。紅茶などは特に人気です。これ、僕はすごいことだと思っていて。わざわざ都心から電車に乗って、駅から歩いて、民家の一角まで買いに来てくれるんですよ。門からお店までの距離を歩くだけでも、きっと勇気がいるはず。それでも“奥富園のお茶が飲みたい”と買いに来てくれる若い方がいるのは、すごく有り難いと思いますね」

新しい世代の方にお茶を飲む習慣が生まれれば、自然とお茶文化が世間にもっと浸透するだろうと、奥富さんは言います。

江戸時代から続く狭山茶の伝統を受け継ぎながらも、新しい時代に似合うお茶づくりを積極的に行う奥富園の前向きな姿勢。その原動力は、どこから湧いてくるのでしょうか。

「どうでしょうね。若い世代の方に求められたいというのはもちろんありますが、息子が大人になったとき、楽しみながらお茶づくりができるような土台となる環境をつくってあげたいなという想いもありますね」

先祖代々受け継いできた奥富園の歴史をこれからも続けるためには、それを受け継ぐ人がお茶づくりを心から楽しめることも大切。奥富さんご自身も、お父さんから受け継ぐ際に「茶業の基盤をしっかりと築きつつ、僕が新しい挑戦できるような余白までのこしてくれた」と実感しているからこそ、息子さんにも同じような環境を整えてあげたいのだそうです。

美容意識の高い人にも好まれる日本茶。
飲み続けることで、自分の自信も湧いてくる。

「日本茶は、美容的な効果が期待できると言う人も多いですよね」奥富さんによると、日本茶を日常的に飲むことによる効果は、とてもたくさんあるのだとか。

「1日1杯飲むだけでいいと思います。お茶は、いつでも手軽に飲めるもの。ハードルが高くない分、始めやすく、続けやすくもあります。飲み続けるほど、内面的にも外面的にも自信がついてくると思います」

確かに、「日本茶 効果」などでネット検索をすると、美容効果や健康効果について書かれたサイトが驚くほどたくさん出てきます。

奥富さんいわく、大切なのは一度にたくさん飲むことよりも、長く継続して飲むこと。ALL GREENのような手軽に飲めるスティックタイプなら、朝起きたとき、仕事の合間、夜眠る前など、日々のちょっとしたワンシーンに取り入れやすそうです。

バリスタやソムリエに並ぶ、
日本茶の「淹れ手」を育てていきたい。

国内外のお茶の大会に出品したり、より良いお茶づくりのために完全オーガニックの茶づくりに挑戦したりと、さまざまな活動されている奥富さんが今、特に注目しているのがお茶の「淹れ手」。

「コーヒーにはバリスタ、ワインにはソムリエと、それぞれプロが存在しますよね。でも、日本茶には専門的な知識や技術を持つ淹れ手がまだまだ少ない。魅力的な淹れ手が増えれば、もっと多くの人がお茶の価値を実感できるでしょうし、日本茶がより気軽で身近な存在になっていくと思うんです。淹れ手の数を増やし、その地位を高めることにも、精力的に取り組みたいですね」と、奥富さん。

確かに、日本茶を専門的に扱うカフェやお店は年々増えてはいるものの、コーヒーなどに比べるとまだまだ限定的。日本茶の煎れ手が、バリスタやソムリエと並ぶ存在となれば、日本のお茶文化は大きく変わるはず。想像すると、とてもワクワクしてきます。

伝統的なお茶づくりのみならず、新しい挑戦を次々と始める奥富園の奥富さん。彼が手がける萎凋茶「ふくみどり」は、ALL GREENで手軽に味わうことができます。ぜひ、お試しください。